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ブラック法律事務所の増加

労働基準法を守らなかったり、パワーハラスメントが横行しているなど問題のある会社を、「ブラック企業」と言い、ブラック企業大賞も毎年選定されるなど、一般にも定着した言葉になっています。

弁護士は法を司る職業ですので、「弁護士事務所がブラック企業なわけがない」と思う人もいるかもしれませんが、「隠れブラック弁護士事務所」が増えています。

10年以上前は、司法試験に合格し弁護士となる人数が少なかったため、弁護士の就職先は国家公務員や検事などを除くと、縁故採用がほとんどでした。

つまり、「大学の先輩が経営している弁護士事務所に就職」「父親がしている弁護士事務所に見習い扱いで採用」など、同じ弁護士のつながりから弁護士事務所に入るのが一般的でした。

それから、数年してから独立して、今度は自分の後輩弁護士を雇い入れると、ある意味就職のサイクルができていました。

しかし、弁護士数の増加により、受け皿となる先輩弁護士も経営難も加わって、縁故で就職できる人数は減り続けています。

そのため、「どこかの弁護士事務所に就職したいけれど、アテがない」という新人弁護士が多数います。

「地方の弁護士事務所で、弁護士の募集をしたら30人も募集があった」との話があるように、新人弁護士は厳しい就職難といえます。

それゆえに、やっと就職できた弁護士事務所がブラックだったと言う事があります。

給料面や就業時間の条件が悪いということもありますが、もっと深刻なのが法スレスレ、場合によっては違法行為の依頼を新人弁護士に担当させるというケースです。

経験が浅い弁護士の場合、先輩弁護士に「大丈夫」と言われればそのまま鵜呑みにして弁護活動をしてしまい、知らずに法を犯してしまうことがあります。

雇っている弁護士事務所も悪質で、「何かあった時のトカゲのしっぽ切り要員」としか考えておらず、その新人弁護士だけが罪をかぶってしまうことがあります。

すべての弁護士事務所がブラックと言う事ではないと思いますが、就職する前には周囲の評判を聞くなどの対策をする必要があります。

弁護士事務所のサイトにも流行が

弁護士の増加により顧客の奪い合いが激化する中で、インターネットによる弁護士事務所の広告が右肩上がりで増えてきています。

そのため、弁護士事務所自身がサイトを作成したり、広告サイト作成会社に製作を発注したりしていることが大半です。

弁護士事務所のサイトを見ていると流行があることが分かり、「ずっと前に作成して、何年も同じなんだろうな」と、古さを感じるサイトもあります。

2000年に弁護士の広告の規制緩和が行われた当初は、文字ばかりのどちらかというと「お堅い」感じのサイトが多くありました。

しかし、2006年に施行された貸金業法の改定により、過払い請求が始まると弁護士になじみが薄かった一般層を取り込もうと、イメージ画像を多く取り入れて、不動産のちらし広告のごとく過払い費用などの説明分の文字の強調などを行うなど、「見やすい・読みやすい・分かりやすい」と言う事を前面に押し出したサイトが多くなりました。

逆に、過払い請求以外の分野が専門の弁護士事務所は、イメージ画像を多数取り入れるところは同じですが、専門的な内容を分かりやすく説明するブログやQ&A方式の記事を記載することにより、「経験や知識が豊富」と言う事を売りにしたサイトとなる傾向が強くなりました。

そして、過払い請求のブームが過ぎ、弁護士事務所の経営が冷え込み始めると、「弁護士の顔写真付き・離婚や交通事故など専門分野を前面に押し出した内容・取扱件数や経験年数の記載・安価な価格設定」を記載するのが、弁護士事務所の広告サイトの流行になっています。

なぜかというと、インターネットの普及が進み過ぎたため、弁護士に探す際にはより自分の依頼にマッチした弁護士を探そうとして、専門分野に特化した弁護士に依頼する傾向が強くなったからです。

集客率を上げるためは内容更新だけでなく、大幅なサイトのリニューアルも定期的に考えた方がいいかもしれません。

弁護士事務所は裁判ありきなのか?

「弁護士事務所に依頼すると、最終的には相手方と裁判になってしまう。」と考えている依頼人がまだまだ多くいます。

もちろん弁護士事務所の方針によって大きく異なり、すぐに裁判をしようとするところもあれば、ギリギリまで話し合いを重ねて当事者同士の話し合いで和解しようとする弁護士事務所もあります。

離婚問題を得意としている弁護士がテレビ出演していたのですが、「離婚問題で裁判所の調停になるのは半分以下で、裁判になるのは少ない。」と言って、他の出演者が驚いていました。

弁護士が間に入った時点で相手側がおとなしくなったり、渋々応じることが多く、中には弁護士に夫のグチを延々言ってから「スッとしたからもういいわ」と帰っていった人がいると、笑い話でされていました。

テレビの演出と言う事を差し引いても、一般人の認識も「裁判が多いんだ」と考えていると思われます。

弁護士事務所の特色により、裁判率は変わってくるかとは思いますが、特に人対人の問題になるとお金が絡んでいたとしても、裁判所は「当事者同士でまず話し合い」と言うスタンスですから、弁護士を挟んで話し合いで解決が多くなるのは当然なのですが、それが一般に浸透していないのが問題です。

ある著名な経営コンサルタントが「ある弁護士事務所が心理療法士をスタッフとして雇っているのだけど、法的なサポート以外にメンタルケアのことも考えていて、顧客サービスとして素晴らしい」と言っていたことがあります。

事実、その弁護士事務所は通常の弁護士業務のほかに、「弁護士に相談したらいいのか、ただのグチなのか」といったボーダーの相談も多数受けることにより、信頼度が高まり口コミ依頼が増えているそうです。

裁判ありきの弁護士事務所のスタイルは古いもので、これからはプラスアルファの何かがなければ、弁護士の大増員時代は乗り切っていけないのかもしれません。

「ゼロワン地域解消」は本当なのか?

昔、大都市に弁護士事務所が集中する、弁護士事務所の偏在問題がありました。

弁護士の絶対数が少ない上に、地方では依頼案件が少ないため、どうしても人口が多い都市部に弁護士事務所を開設するケースが多く、過疎地域や人口の少ない小さな都市では、弁護士がいないというのも珍しくありませんでした。

地方裁判所の支部があるにもかかわらず、そこに在住する弁護士がゼロもしくは一人の地域を「ゼロワン地域」と呼び、日弁連も解消に努めてきました。

近年は、弁護士数の増加やゼロワン地域解消対策が進み、「ゼロワン地域の解消が出来た」との声も上がっています。

ですが、実情をよくよく見てみると、数字や制度で解消したと見せかけられている分も多数あります。

良くあるのが、「弁護士数は地方裁判所管轄内に2人います」となっていても、実際には高齢の弁護士で名ばかりの弁護士事務所の看板を挙げているだけで、活動していないと言う事もあります。

もう一つが派遣型の弁護士事務所の形態が多いことです。

「弁護士過疎対策供給型A協力事務所」と言うのがそうで、新人弁護士を都市部の弁護士事務所で育成し数年経ったところで、ゼロワン地区の弁護士事務所に転勤させるというものです。

もちろん、ゼロワン地区解消には大いに役立っているのですが、経験が浅い弁護士が事務員もいない弁護士事務所を一人で切り盛りしていることも少なくなく、弁護士に重責がかかっているとも言えます。

また、数年たったところで別の弁護士とバトンタッチして都市部の弁護士事務所に戻ることが多く、本当の意味でのゼロワン地区への弁護士の定着とは少し違っているという面もあります。

過疎地域に定住しても生活できるほどの依頼があるかというのが、根本的な問題にあるため、長期にわたり解決できるかはまだまだ不透明といえます。